むし歯なのに痛くないのはなぜ?痛くないむし歯の治療とむし歯の種類
痛くなくても「むし歯」と言われた経験はありませんか。痛みがないのに歯科検診で「むし歯がある」と言われて不思議に思ったことがあるかもしれません。しかし痛みを感じられなくてもむし歯になっているケースは珍しいことではありません。この記事では、むし歯の原因や種類と治療について解説しています。
むし歯になる原因
むし歯とは、口の中の細菌がくっつき合って大きな塊の歯垢(プラーク)となり、細菌が食べ物や飲み物に含まれる糖質をエサにして酸を作り歯を溶かして穴があいてしまう疾患です。生まれたばかりの赤ちゃんには、ミュータンス菌と呼ばれる「むし歯菌」が存在しないので、保護者の口から感染するといわれています。むし歯になりやすい場所は、歯垢や食べかすが溜まりやすいところです。「歯と歯のあいだ・奥歯の溝・歯と歯ぐきの境目」の3か所はとくにむし歯になりやすい部位だとされています。なりやすい場所を意識してお手入れするだけでもむし歯予防には効果的です。むし歯が痛いのはなぜ?
歯の表面を覆っている「エナメル質」は、むし歯菌に感染して表面が少し溶けても痛みを感じません。そのため初期のむし歯では痛みを感じることがなく、自覚症状がないので自分で気づくことがなかなかできないのです。歯は大きく分けて、外層と内層の2層に分かれています。外層が歯の表面を覆っているのが「エナメル質」で、人体の組織の中でも一番硬いといわれているものです。内層にあるのが柔らかい「象牙質」で、冷たいものや熱いものがしみたときに刺激を感じます。その奥にあるのが歯髄(神経)です。むし歯は「エナメル質→象牙質→神経」という順で侵入してくるため、象牙質に達してくると痛みを感じるようになります。痛くないむし歯もある
むし歯なのに痛みを感じない場合には、いくつかのケースがあります。1つは初期の「エナメル質」が溶けてきた段階です。痛みを感じる「象牙質」まで達していないため、痛みを感じません。もう1つは、むし歯が進行し続けて神経が死んでしまい、痛みを感じなくなるところまでいきついた状態です。また治療により神経を失った場合も、むし歯が再発しても痛みを感じることがありません。いずれも場合も、痛みがなくても「むし歯菌」が無くなったわけではないので、むし歯は進行し続けてしまいます。「痛みを感じない=治療が必要ない」という訳ではないため、治療しましょう。むし歯の種類
むし歯の種類はC0~C4の5段階です。それぞれの段階について解説します。C0:むし歯の前段階
C0はむし歯の原因菌がつくりだす酸によって、歯が溶かされはじめた状態です。まだ穴もなく黒っぽくもなっておらず痛みもありません。「初期う蝕」ともいわれ、エナメル質の表面が透明感を失って白いチョークのような色になります。この段階では治療を行う必要はなく、歯科医院で行う予防処置や、適切なブラッシングと唾液の力によって再石灰化することにより、歯を修復できる可能性があります。C1:エナメル質のむし歯
C1は、むし歯がエナメル質に限局した小さな穴をあけ、まだ象牙質までは進んでいない段階です。エナメル質には神経がないため、まだ痛みは感じません。この段階での治療は、表面が黒っぽくなってしまった程度であれば削らずにクリーニングやフッ素塗布を行って経過観察します。また、むし歯の部分のみを削って詰め物をするといった比較的簡単な治療を施して終わるケースがほとんどです。削ってしまった歯は元には戻りません。極力削らなくてもよい処置ですむ段階でむし歯が見つかると、歯を守ることができます。C2:象牙質のむし歯
C2は、むし歯が進行して象牙質にも達した段階です。象牙質はエナメル質に比べて水分を多く含み軟らかい組織なので、その下にある神経に刺激が伝わりやすくなります。むし歯は神経に達していません。しかし象牙質から神経に刺激が伝わるため、冷たいものや甘いものがしみたり、痛みがでたりします。この段階で行われるのは、むし歯の部分を削り、詰め物で歯を修復する治療です。軟らかい象牙質までむし歯が進むと早いスピードで進行していきますので、早めに治療を受けましょう。C3:歯髄(神経)まで進行したむし歯
C3はむし歯が象牙質の下にある歯髄(神経)に達した状態です。ズキズキとした強い痛みが生じ、冷たいものや熱いものがしみます。むし歯が直接神経を刺激して炎症を起こしている状態です。夜も眠れなくなったり、痛み止めを飲まずにはいられなくなったりします。痛みによる自覚症状が強いので、この状態で歯科医院を訪れるケースも少なくありません。神経の炎症が悪化しすると歯の根の周りにも炎症が広がるので、上下の歯を噛み合わせただけで非常に強い痛みを感じることもあります。神経までむし歯が達してしまった場合、細菌に感染した神経を取り除かないと痛みを落ち着かせることができません。この段階では、歯の神経を取り除き、歯の根っこをきれいにする治療(根管治療)が行われます。神経を取ってしまった歯は弱くなりやすいので、できるだけ神経を残せる段階で治療するのが望ましいです。神経を取ると痛みが落ち着くため、治ったような感覚がするかもしれません。しかしここでしっかりと歯の根の治療をしておかないと根の周りに膿ができたり、歯を支えている骨が溶けてしまい歯が抜けたりといった事態になるおそれがあります。C4:むし歯が進行して歯根だけが残った状態
C4は、むし歯が進行して歯の頭の部分が溶けてなくなってしまい、歯の根だけが残った状態です。食べ物をしっかりと噛むことができず、すでに神経が死んでいるため、痛みも感じません。自覚症状はありませんが一番悪化したむし歯の状態です。保存できそうな場合は歯の根を治療しますが、保存が不可能だと判断された場合は抜歯することになります。神経を残す重要性
神経にまでむし歯が到達している場合は残すことができませんが、先述のとおり神経を取ってしまった歯はもろくなるため、できれば残したいものです。どうしても温存できない場合は仕方ありませんが、できるだけ温存できないか担当医師に相談してみるのもおすすめです。歯の根の治療(根管治療)は時間がかかる
歯の根の治療(根管治療)は時間が必要です。むし歯が歯髄(神経)まで達してしまった歯(C3)の場合や、根だけになってしまった歯(C4)で温存できそうな場合には神経を取り除き、歯の根の治療(根管治療)を行います。根の治療は一般的に3回前後が目安ですが、場合によってはそれ以上かかるかもしれません。歯の根の中は非常に狭く、先で枝分かれしていることもあるので、非常に繊細な治療が必要です。炎症が強かったり、根の先にまで膿がたまってしまったりといった場合もあるため、治療期間が長くなってしまいます。歯の根をきれいにし、洗浄・消毒を行ったのち、薬剤を詰めてむし歯の再発を防ぐ治療をします。根管治療のおおまかな流れ
一般的な根管治療の、おおまかな流れについて解説します。根管治療①
根管治療は、まず神経や細菌に感染した内部を清掃して細菌の除去を行います。お掃除が終わったら根管内を薬品で洗浄して殺菌し、仮歯を着けて終了です。保険診療の場合は、この治療を数回続けて根管内の汚れを取っていきます。顕微鏡を用いた根管治療では、1回で完璧に汚れを取ることが可能です。根管治療②
症状を確認したら、膿や炎症などがないことを確認します。根管の先端まで隙間がはいらないように詰め物をします。根管治療③
「被せもの」へと治療をすすめることが可能だと判断できたら「被せもの」の治療へ進みます。歯の根の治療(根管治療)のリスク
根管治療だけに限ったことではありませんが、むし場が再発するケースもあります。根管治療は歯科治療の中でも一番難しいものです。日本の保険診療において、レントゲンで症状の再発が認められたケースは45~70%と非常に高いものとなっています。再発した感染根管治療はさらに成功率が低くなるため注意が必要です。再発したときにはどんな症状がある?
再発してしまった場合、噛んだ時に痛みがでたり、歯ぐきが腫れたりといった症状があらわれます。さらに症状が進んでくると、膿の穴(フィステル)ができてしまうこともあるでしょう。また場合や腫れが顔にまで影響を及ぼす場合があります。根管治療は細菌との戦いである
根管治療は知らぬ間に入り込んでくる細菌との戦いであり、その侵入経路には以下のような可能性が考えられます。- 根管治療の際に根管内に細菌が混入した
- 前回の治療で根管の洗浄、殺菌が十分でなかった
- 前回の治療で根管への充填がうまくいっていなかった
- 歯冠修復が十分ではなかった
再発の有無を確認する方法は?
再発の有無は歯科医院でレントゲンを撮ると確認できます。影ができていることが確認できたなら、症状が再発するのは時間の問題です。保険診療では根管治療のやり直しになることが多く、最悪の場合には抜歯しなくてはならない場合もあります。抜歯してしまったら、インプラントかブリッジや入れ歯といった治療法へと進むしかありません。できるだけ抜歯をせずに使えるよう温存できる治療を希望するなら、顕微鏡根管治療をおすすめします。耳慣れないと感じるかもしれませんが、アメリカでは90%の成功率があり、根管治療を行う歯科医師は顕微鏡の使用が義務付けされているほどポピュラーなものです。殺菌を完璧に行うには技術が必要
根管治療で細菌をきれいに掃除し、殺菌を完璧に行うためには高度な技術が必要です。根管の構造は非常に複雑ですが、見落とすことなく病変を取り除かなくてはならりません。また根管内を傷つけて穴を開けてしまわないよう注意を払う必要があります。肉眼でそれを完璧に行うのは非常に困難です。再発しづらい根管の掃除と殺菌を実現するためには歯科医師の視力がどんなに良かったとしても顕微鏡がなければ難しいでしょう。顕微鏡根管治療であれば、仮に根管に穴が開いていた場合に封鎖専用のMTAセメントを用いて修復できる場合もあります。再発にはかならず原因があります
根管治療をおこなったのに虫歯が再発するのには必ず原因があるはずです。原因を突き止めることなく治療をしても、再発を繰り返してしまうかもしれません。根管治療を再度行うことは歯にも非常に負担をかけることになり、弱った歯は抜歯につながる可能性が高くなります。歯をできるだけ残したいと考えるなら、はじめから再発リスクを避けるためにも「顕微鏡根管治療」を選ぶのがおすすめです。顕微鏡根管治療を検討してみるポイント
保険診療で根管治療を行っていて、以下のようなことを感じていたら「顕微鏡根管治療」を検討してみるのも良いかもしれません。- 歯を温存することが難しく抜歯してインプラント等を勧められたが歯を使いたい場合
- 週1回で通院しているのにも関わらず3ヶ月以上同じことを繰り返していて進展しない
- 同じ歯の根管治療を何度も繰り返している
- 治療したはずの歯に痛みや腫れがでているが治療せず「経過観察」されている場合